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今回の味噌漬け実験の意義
2008.04.13第2次再審申請に要する新証拠と一つとして5点の衣類の味噌漬け実験を行った。この意義について述べたいと思う。私たち弁護団および支援者はこれまで袴田さんが犯人とされる数々の証拠に合理的疑いがあることを証明してきた。しかし東京高裁、最高裁とも5点の衣類が犯行着衣であり袴田さんの物である以上、他の証拠にいくら疑問があろうと袴田=犯人の認定は崩れないと論点を絞り込んできた。その5点の衣類についても私たちは数々の疑問点があることを証明し何者かにって作られたニセモノの可能性が強いことを指摘した。すると裁判所は五点の衣類は長期間味噌に漬かっていたのだから疑問点が様々あったとしてもホンモノであって袴田=犯人の認定は崩れないと結論づけた。 原文を引用すると、東京高裁2004.08.26「衣類が味噌タンクに1年余りも漬かっていたような状態が一朝一夕にできるとも思われない」 最高裁2008.03.24「5点の衣類及び麻袋は、その発見時の状態等に照らし長期間みその中につけこまれていたものであることが明らかであって、発見の直前に同タンク内入れられたものとは考えられない」と述べているところに裁判官の考え方がよく現れている。
人血付着の衣類が味噌に漬けられるなどという行為はあらゆる生産工程にも日常生活にも存在しない。裁判官であろうと誰であろうと人血付着の衣類が赤味噌に1年以上漬けた状態が外見上どんなものか知るものは誰もいないのである。見たこともないのに「長期間みその中につけこまれていたものであることが明らか」などと言えるはずがないのだ。
この問題で答えを出せるのは実際に衣類を味噌に漬けてどうなるか見る他はないのであり、味噌漬け実験が重要な意義を持つことになった。幸いにして5点の衣類には発見当時鑑定官が撮影したカラー写真が残されているので発見当時の色合い外観を知ることができる。これを比較対象として以下の2つが実験として証明が可能である。
①仮にねつ造(ニセモノ)であるとして、カラー写真と外観色合いの同様な状態を一朝一夕に作り出し、裁判官の判断が誤りであることを証明する。
②仮に犯行着衣(ホンモノ)であるとして、1年以上赤味噌に漬け込むとカラー写真と著しく外観が異なり、発見された5点の衣類がねつ造(ニセモノ)であることことを証明する。
①②については既に行われた予備実験よって結果がほぼ予測されているが、弁護士の立ち会いや正確な記録の必要からあらためて本実験を行うことが求められたれている。この一対の実験は計算式もなく単純明快一目瞭然と言って過言ではない。見れば判るのである。この実験は精密な再現実験ではないし、ねつ造の方法を特定したわけでもない。作り方としては何通りもあるだろうが、味噌工場で簡単に手に入る「たまり」や「味噌」を使い簡単に作る方法の一つを実施してみただけである。しかしそれだけで「一朝一夕にはできるとは思えない」と言う裁判官の判断の誤りは完全に証明できた。これらの証拠は裁判官の前で実施することも可能だし、もし補強すべきところがあれば何度でもやり直すことができる性格の証拠である。
今回は①②一対の実験内①を実施したのみで今後②の実験を行うことは言うまでもないが②の実験の方がより直接的に5点の衣類がねつ造であることの証明になる。しかし行うべき課題も多く総力で取り組む必要がある。
5点の衣類はニセモノかホンモノかどちらかであり、味噌タンク入れることが可能な時期は事件直後から20日間かまたは発見直前の1~2日以外に不可能である。従って1年以上の長期間か1~2日の短期間かのどちらかであり、その他中間的な場合を想定することは物理的に不可能である。長期か短期かが犯人か無実かを分ける決定的争点に絞り込まれてきたといっても良いのではないかと思われる。5点の衣類の発見当時のカラー写真を見ながら「赤味噌に1年以上漬かっていたにしては色が薄すぎないか?」と当初はほんの思いつきでしかなかったが、今5点の衣類味噌漬け実験の意義は非常に大きなものになった。